プロフィール

あらいよしこ
荒井よし子 - Yoshiko Arai-
植物の糸と染め織り工房「草縁」

〜略歴〜
日本大学芸術学部卒業。
編集・ライター・校正者としてフリーランスで働きながら、大塚テキスタイルデザイン専門学校にて染織の基礎を学ぶ。
福島県・奥会津昭和村のからむし織体験生となったことをきっかけに、植物の繊維から糸をつくり織る「自然布」の面白さに目覚める。
圓福寺ともいき工房/森原三公子氏、
吉田手織工房/吉田紘三氏に師事。
2015年より鳥取県・智頭町の板井原集落にて、築260年の古民家を改修した染め織り工房をはじめる。

ごあいさつ

はじめまして。
まず、自己紹介を兼ねて、私の今までの3つの転機についてお話させてください。 出身は静岡県の浜松市です。子供の頃から草木で染めたり織ったりすることや、ましてや日本の伝統工芸に興味があったわけではありません。むしろ、70年代に世界を放浪していた父の影響で海外への憧れが強く、大学4年生のときに1年間休学してアジア遊学の旅に出ました。
これが、1つ目の転機です。
まず、成田から飛行機でタイに入り、カンボジア、ベトナム、ラオス、マレーシア、シンガポール、ネパール、インドなど、東南アジアを中心にさまざまな国を訪れました。田舎の村などは観光客がとても少なくて、その分、現地の人の素朴な人柄や文化にたくさん触れることができました。

村の店や市場に行くと、多種多様な民族の雑貨が並んでいたのを覚えています。手織りや刺繍のアイテムも多く、財布、ポーチといった小物類からバッグ、儀式に使うような布、民族衣装まで、いずれも個性的な模様、カラフルな色彩にあふれていて見ているだけでも楽しくなりました。

もちろん、当時はまだ「自分で作ろう」と考えたわけではありません。ただ、「世界には自分の知らない民族がたくさんいて、それぞれが独自の文化を持って、ものづくりをしているんだ」ということが心に残りました。

その後、大学を卒業して出版関係の仕事を始めましたが、また旅に出たくなり、2001年にメキシコ先住民の村を訪れました。
これが、2つ目の転機です。

普通の家庭に泊めてもらう、いわゆるホームステイのようなかんじで、ウイチョール族という先住民の若い夫婦と3人の子供たちと生活を共にしました。一番近い隣の家まで歩いて30分というような本当に何もない山の中です。

奥さんのシルビアは、いつも庭に杭を打ってたて糸をかけ、それを自分の腰に固定して織物をしていました。腰機とか原始機とか呼ばれるシンプルな織機で、1日の作業を終えると杭からたて糸を外し、くるくる巻いて片付けます。そして、次の日になるとまた庭に出て同じ作業を続けるのです。
原始機は日本でも弥生時代から古墳時代にかけてよく使われていたといいますが、この村では今もなおこの昔ながらの素朴な織機が日常的に活躍しています。

構造はとてもシンプルなのですが、織った布の模様は素晴らしくて、どういう仕組みになっているのか見ていても全然わかりません。「教えてよ」と言うと、「あなたは初心者だから、子供たちと同じレベルからね」と、小さな織機を作ってくれました。

まだ小学生くらいの子供たちと一緒に並んで体験した、初めての機織り・・・縞柄の細いベルトのような紐のようなものを作ったのですが、これが意外と難しくてうまく織れない・・・けど、面白い!
この村では、機織りの上手下手で嫁の価値が決まるといいます。一つひとつの模様には意味があり、家族のために心を込めて織る。素敵だな、自分も織れるようになりたいな。 この気持ちが原点となり、機織りの世界へ足を踏み入れることとなりました。

ところで、みなさん奥会津の昭和村という場所をご存じでしょうか。 福島県の西部に位置するのどかな山村で、誰もが知ってる観光地というわけではないのですが、染織をやっている人の間では結構有名なところです。
その理由は、からむしという植物。

からむしは苧麻と呼ばれる麻の一種で、越後上布や小千谷縮など、夏の着物である上布の原材料です。昭和村は、このからむしの本州唯一の生産地として知られています。
昭和村では、現在もじいちゃんやばあちゃんたちが畑でからむしを栽培しています。そして、苧ひきと呼ばれる昔ながらのやり方で繊維を取り出し、農閑期になるとみんなでおしゃべりをしながら、あるいは一人家で黙々と、細く裂いた繊維をつなぎ続けます。そして、その繊維は撚りをかけて糸となり、機にかけられて布となります。

私は、この昭和村で織姫体験性として、からむしから糸を作り、織るまでの一連の工程を1年かけて学ぶとともに、植物から糸を作ることの面白さを教えていただきました。
これが、3つ目の転機となりました。
昭和村に行く前は「糸は買うもの」と思っていましたが、今ではできるだけ自分で糸からつくりたいと思っています。もちろん時間がかかる作業なので、実際はそれほど多くつくることができないのが現実ですが。。。

現在は、小さな畑で細々と苧麻を育てて糸づくりを続けています。 昭和村のからむしは上質な繊維として珍重されるブランドですが、そもそも苧麻は全国各地でよく見られる、いわば雑草です。智頭町の山にもよく生えていて「やまお」と呼ばれているそうです。 畑で育てたからむしのようにキズのない白くてピカピカの繊維とはいきませんが、なかなか味のあるワイルドな繊維がとれます。

みなさんにも、植物から糸を作る楽しさを伝えるお手伝いが少しでもできたらうれしいです。
植物の繊維や染め織りにかかわるワークショップも随時開催していきたいと思いますので、お気軽にお立ち寄りください。


お問い合わせ

植物の糸と染め織り工房 【草縁】
〒689-1401
鳥取県八頭郡智頭町大字市瀬2018
Mobile:080-5436-0233
wildgrassh@gmail.com

工房イメージ